お大師様の杖
整形外科でリハビリ助手をしていた時のこと。足首に白い糸を巻いておられる方(主に高齢の女性)が時折おられました。「この糸、何ですの?」と尋ねると「お大師様の杖」と教えてくださいました。何でも足首に白い糸を巻いておくと転ばないまじないになるのだそうです。高齢者が転倒して足の付け根(大腿骨頚部)や手首(橈骨遠位端部、コーレス骨折)の骨折を起こすことはよくあることで、特に大腿骨頚部を骨折すると昔はそのまま寝たきりを余儀なくされたでしょうから(骨折が治りにくい。現在は手術的に治療)そういう民間伝承が伝えられてkたのだな、と思っていました。お大師様、と名付けられているのは毎月21日に糸を巻きなおすからでそういう話からもまあ、おまじないの類と思っていました。開業してからもしばしばこの「お大師様の杖」を巻いている方を見かけました。中には転びかけるとこの糸が身代わりになって切れる、という話を教えてくださった方もおられました。さて、十年ほど以前、様々な治療法のセミナーを受講していた頃のことです。アクチベータ・メソッドというカイロプラクティックテクニックのセミナーで、興味深い光景を目にしました。このテクニックは神経の反射を応用したもので体のあちらこちらにアクチベータという器具を当てて治療していくのですが足首の骨(距骨)をこの器具で矯正すると何と足の長さがそろうのです。以前に書いたことがありますが患者をうつぶせにして足の長さの左右差を比べ、長短があれば骨盤がゆがんでいる、とカイロプラクティックや整体では考えます。必ずしもこの考えは正しくないと私は思っていますが足の長さの長短差がなくなったということは体のバランスが改善した指標にはなると思ってはいます。それはさておきこの光景を目にしたときに私の頭に浮かんだのは先に述べた「お大師様の杖」でした。足首に糸を巻いても同じように足の長さはそろうのではないか、と当然考えますよね。そこで翌日、骨盤の矯正を行っているクライアントにわけを話して足首にサージカルテープ(紙絆創膏)を巻かせてもらいました。結果は?もちろん大成功。足の長さはちゃんとそろいました。クライアントの腰痛まで治ってくれたら文句なかったのですが残念ながらそれは無理。ただし何らかの理由で歩行のバランスがおかしくなった人の足首にテープを貼ると歩行時の重心の掛け方が改善することはわかってきましたので時たまこの「お大師様の杖」を応用した治療法は使わせていただいてます。転びかけた時にこの糸が身代わりに切れる、という話の方はというとこちらもおまじないではすませられないかもしれません。とある整体の本を読んでいると「骨盤の動きにつれて足首の太さが変化する」といった意味のことが書かれていました。もし本当にそうなら転びそうになったときに(足首の太さが変化して)糸が切れることも全くあり得ない話ではないような気がします。これについては確認をしてはいませんが先人の英知に畏敬の念を抱いたことでした。
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