グルート表
骨折した骨がくっつくのにどのくらいの期間が必要でしょうか?
もちろん年齢によっても違いますし(子供は成人より早くくっつく)同じ骨でもどんな折れ方をしたかによってくっつく期間は変わってきます。
それでも大体の目安、というのはわかっていてこれをまとめた人の名前をとって「グルト表」というのが作られています。
この表を見れば中手骨が2週間とか鎖骨は4週間とかそれぞれの骨のくっつく期間(骨癒合期間)が載っています。
ちなみに癒合に一番長いことかかるのが大腿骨頸部、といって足の付け根のところです。ここが折れると骨に栄養を送っている血管が断たれてしまう上に高齢者に多い骨折なので癒合がよくありません。グルト表を見れば「12週間」と載っています。現在では手術の適応になることがほとんどです。
柔道整復師の学校に入ると、まず教科書に載っているこのグルト表を暗記させられます。国家試験の問題として出題されることもあります。
ところがこのグルト表、実はオリジナルではありません。柔道整復学の教科書の「骨折の癒合日数」という項目に載っているグルト表にも「グルトの骨癒合日数を基準に実情を勘案し、おおむね下記の期間を一応の基準と考える」という但し書きがあります。
オリジナルのグルトの研究を見たことがあるか?と言えば恥ずかしながらありません。これは私が不勉強であるからだけではなくてたぶん柔道整復師で原典を見た人はいないでしょう。
それならどこからこの「グルト表」が出てきたのかと言うと「神中整形外科学」という本からの引用です。柔道整復学の教科書のもともとのベースはこの本ですから仕方ないのですが、ひょっとしたら「孫引き」という言葉すらわれわれの業界では知られていないのかもしれません。
この話、勤務先の上司(教科書の編纂にもかかわっておられる)からの受け売りなのですが考えてみれば骨折や脱臼についての海外の文献を読みこなせる柔道整復師が果たしているのでしょうか。
骨折や脱臼にこだわる限り柔道整復学の構築などはありえません。年に数例あるかないかの骨折や脱臼の症例を集めてみても質・量ともに整形外科にはかないっこありません。しかも医学(に限らず科学はみんな)論文はすべて英文、でしょう。原典に当たらずに何を言っても笑いものにもならないでしょう。
なんかむやみに難しいことをたくさん知っている柔道整復師は増えてきましたが、「学」というのは知識の量だけではないのだけどなあ、と思います。
PR