柔道整復師が内科疾患に施術を行ったら?
柔道整復師の施術対象となる疾患が、一般に考えられているような(一般、と言っても柔道整復師を批判する方々と当の柔道整復師だけですけれども)骨折、脱臼、打撲、捻挫だけではないということを書きました。
この四つの傷病については柔道整復師の施術に対する療養費の支給対象である、と言うだけの話です。
もちろん「急性・外傷性」であるならば整形外科で「急性腰痛症(ギックリ腰)」と病名がつくべきものを柔道整復師が「腰部捻挫」として施術を行い、療養費の請求を行うことに何ら問題はないでしょう。なぜなら、柔道整復師には診断権がないため病名をつけることが法律的にできません。急性、外傷性に腰に痛みを生じたものを「捻挫」とみなして施術を行い療養費の請求を行っているだけのことです。
柔道整復師がある傷病を療養費の支給対象であるか否かを判断できるのは、その怪我が「急性・外傷性であるかどうか」と言う点だけなのです。
良くも悪くも柔道整復師には診断権がありませんから、たとえば内科的疾患に施術を行ったとしても医師法違反に問われることはありません。「そんな馬鹿な」と思われます?でも実際にそういう判例があるのです。
ここからは城西大学の中村敏昭先生が書かれた「判例からみた柔道整復と医業類似行為」という論文からの引用を中心に書いていきます。
事件の概要は日ごろから親しい一家の長男が風邪の症状を訴え熱が38度くらいあると聞いた柔道整復師が患者に施術(矯正または愉気と呼ばれる手技)を行い足湯、その他の手当てを行うよう指示、病状が悪化したにもかかわらず医師の診察を受けるように勧めないまま同様の指示を繰り返し患者が死亡した、と言うものです。この柔道整復師は誤った治療方法を繰り返し指示した過失で患者を死亡させたとして医師法17条(無資格医業)と業務上過失致死罪違反で起訴されました。
裁判の結果どうなったか?なんと、医師法違反については無罪となったのです。
「結局、問診と言われる会話は日常の雑談と認めうる程度、態様、触診といわれるものは矯正術の一部でごく自然な患者に特段の苦痛を与えない手段、程度、態様の行為であって危険な行為ではなく、更に注射器、聴診器、体温計による診察でもないとし医行為とはそれ自体の手段、方法、程度、態様及び効果から見て、医師がその医学的知識と技術を用いて行うのでなければ患者の身体、生命に危険を及ぼす虞があると一般的に認められる医療のための行為若しくはその指示を言うと解されるところ、被告柔道整復師の一連の所為が医行為に該当すると認めるに足る証拠はない、として医師法17条違反を否定した。」
ここで問われているのは施術の対象とした傷病名ではなく、どんな行為をしたのか、であることに注目してください。対象となる傷病名に制限が設けられていないのは柔道整復師の施術で何でもかんでも治るからではなくて、単に傷病名の診断権すらない、と言うだけのことにすぎませんが。
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