柔道整復師の施術の対象
一般に柔道整復師業界?で使われている「業務範囲」という用語の用法の誤りについて書きました。それでは柔道整復師が施術を行うことのできる傷病についてみていくことにしましょう。
柔道整復術が柔道の活法(柔道の練習、試合中に発生したけがの手当て)に由来するものである以上、骨折、脱臼、打撲、捻挫が施術の対象になることは当然でしょう。大正時代に改定された「按摩術営業取締規則」の中に「柔道の教授をなすものが打撲、捻挫、脱臼および骨折に対し行う柔道整復術」と言う文言が見られます。
裁判での判例を見てみますと「柔道整復とは、打撲、捻挫、脱臼および骨折に対して(中略)その回復を図ることを目的として行う施術を指称し」(昭和47年長野地裁)と言うのがある一方、「柔道整復師は(中略)医師の同意を得た場合のほか脱臼または骨折の患部に施術することは禁ぜられているけれども(中略)その知識と技能をもって脱臼、骨折に至らない打撲あるいは捻挫等比較的軽度の身体障害に対し施術をなすことを容認されているものと解すべく」(昭和53年仙台高裁)と言った判決もあります。
仙台高裁の判決を見る限り「等」と言う文字がくっついていますから施術の対象は「骨折、脱臼、打撲、捻挫だけに限られないことになります。ではどんなものが対象となるのか、と言えば「比較的軽度の身体障害」と言うことになるのでしょう。
行政はどうか?柔道整復師の保険取り扱いについては厳密にいうと「療養費」といって一般の医家の保険取り扱いとは制度が違います。どういう傷病に対して「療養費」が支給されるのか「柔道整復師の施術に係る算定基準の実施上の留意事項」(平成9年4月17日 保険発57)という厚生労働省からの通達に明確に記されています。ちょっと見てみましょうか。
※療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲および捻挫であり内科的原因による疾患は含まれないこと。(ちなみに同年12月「単なる肩こり、筋肉疲労に対する施術は、療養費の支給対象外であること」という項目が追加されています。)
※療養費の支給対象になる柔道整復師の施術に対しては、別添の記載・整備事項を網羅した施術録(カルテのこと、筆者注)を患者毎に作成しておくこと。
どうでしょうか。これを見る限り柔道整復師の施術には療養費の支給対象になるものとならないものがあり、骨折、脱臼、打撲、捻挫が支給対象である、と言うことが明確でありましょう。ぶっちゃけた言い方をすれば保険を使わないのであれば内科疾患でも肩こりでも柔道整復師の業務として施術をしてもかまわない、と言うことになります。
骨折、脱臼、打撲、捻挫は単に療養費の支給対象になる疾患(とはいえこれが大事なのですが)といった意味合いしかもたないことがお分かりいただけたことと思います。
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