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大阪市西淀川区にあるクラニオセイクラル専門の整骨院院長のきまぐれ日記

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耳掃除の不思議

ちょっと長い引用です。

厚生労働省が「医行為ではない」との見解を示した2005年7月以降、エステティックサロンなどで客に広く行われている耳掃除サービス。ところが、大阪府は理容師に対し、また京都府では理容師、美容師ともに条例で同サービスを禁じている。こうした全面規制をしているのは全国で2府だけ。大阪府の理容師らは「店で耳掃除ができるようになれば、料金が格安のチェーン店との差別化が図れる。事実上、規制の意味がなくなっているのに、我々だけ禁止されるのは理不尽」として、条例改正を府に要望している。

 大阪府は理容師法施行条例で「客の耳そり、耳掃除及び鼻毛そりをしないこと」と規定。大阪府理容生活衛生同業組合によると、過去に大阪の理容店主が客の耳掃除をしている最中に耳内を傷つけたことがあり、1949年に細則を定める際、当時の組合が一律禁止にするよう府に要請したらしい。

 同様に、耳掃除を禁止している京都府。府生活衛生課は「理容師については48年から禁じている。衛生に配慮してのことと思うが、今となっては規制の経緯、理由はわからない」という。

 全国理容生活衛生同業組合連合会は昨年、各地で理容師向け耳エステ講習会を開催。綿棒で耳内をきれいにしたり、耳たぶなどをマッサージしたりするサービスを指導した。担当者は「こうしたサービスは、癒やしを求めるお客さんに間違いなく喜ばれ、店の経営にもプラスになる」とみる。

 大阪市内で30年以上理容店を営む中村敏弘さん(63)は今春、府に条例改正を要望。「約60年も前の古いルールを放置し、だれもがやれることを理容師だけに許可しないのはどう考えてもおかしい。客離れが進む中、サービスに加えられたら、売り上げも増えるのに」と話す。

 大阪府には、ほかにも条例改正を求める声が寄せられており、担当者は「理容店以外で耳掃除サービスが普及しているのは事実。業界の意見を広く聞き、改正が必要かどうかを検討したい」と説明。一方、京都府は「店側からの要請は特になく、見直す予定はない」としている。

2010年8月21日  読売新聞)

と、まぁこんな話です。ちなみに「耳かきエステ 大阪」で検索すればゴマンとその手の専門店にヒットします。
確かに「誰でもできる」耳掃除を理容師さんだけができないというのはおかしい。

ただ、経緯を読んだ限りではやむを得ない部分もあるようです。

というのが2005年に厚生労働省が耳掃除は医行為ではない、という見解を出したということはそれまでの間は「耳掃除は医行為(かも?)」であったわけです。理髪店で医行為ができないのは自明の理で、そうであれば大阪府や京都府が条例でこれを禁じるのは当然のことでありましょう。

似たような話は柔道整復師法にもあって「柔道整復師は外科手術を行い、または薬品を投与し、もしくはその支持をする等の行為をしてはならない」というのが同法16条にあります。

外科手術とか投薬は医師しかできない医行為なのでこのような規定が存在します。ただし、外科手術と投薬のみが禁じられているわけではなく医師にしかできない行為全般を柔道整復師は禁じられています。その中で外科手術や投薬は柔道整復師が誤ってやってしまいやすい行為なのでこれを条文の中に入れて注意を喚起しているわけです。(例示的注意事項と言います)

だから、16条に例示された事項の他の医行為も16条違反となります。たとえば診断行為などを行うとこれにバッティングしてしまいます。当然、耳掃除が医行為であるのならば柔道整復師がそれを行えば16条違反ということになってしまうでしょう。

理容師さんも同じことで、医行為にバッティングするのを避ける意味で耳掃除を禁じていたのは間違いとは言えないと考えます。問題は2005年以降、耳掃除が医行為ではないということが明白になった時点で条例を改正しようという動きがなかったことでありましょう。

さて、柔道整復師が耳掃除をすることは可能でしょうか。もちろん私が「耳かきエステ」で浴衣を着て(相撲取りみたいですが)クライアントの耳を掃除する分には全く問題ありません。

整骨院では柔道整復以外は行ってはいけない規定になっています。もし院内で耳かきをしようと思えば「耳かきは柔道整復の手技として適当か?」ということを考えなければなりません。これはこれで面白いですけれどね。
 
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THE DAY AFTER最終回

柔道整復師が「補完医療としての痛みの治療」を行うというのは結局のところ「外傷以外の症状を様々な手段で治療する」ということになるでしょう。具体的にどんな手段を使うかと言えば何でもありです。柔道整復師が行うことのできる手段はすべて柔道整復ですから、それこそカイロでも整体でも何でもいいです。ただし、外傷以外ですから健康保険は使うことはできません。こちらの方法論について最後にお話ししますね。
 
「健康保険にしがみつくのはそろそろやめにして、その後のことも考えてみませんか?」というさっきまでの話と矛盾するようですが、健康保険を使える患者さんには使ってあげた方がいいです。保険を使える患者さんというのは急性、外傷性のケガの患者さんですよね。そういった患者さんの手当て、自分のところで賄えるものについては勿論大いにやるべきだと思います。

これは病院で診てもらった方がいいな、とか通常の経過と違うなと思ったらきちんと理由を患者さんに説明して医療機関に紹介状を書いて送る、要するに交通整理の役割が柔道整復師に求められることは地域にもよりますがまだ多いと思います。「各種保険取り扱い」ができる治療院はやっぱり信用の度合いが違いますよ。

そうして患者さんとの信頼関係ができてくると「病院に行っても治らない症状」の相談が徐々に来るようになるでしょう。そういう症状の患者さんこそが「補完医療としての柔道整復」を求めておられる方ですよね。だって、一般の医療では効果が見られなかったからこそ医師ではない柔道整復師に相談をしてこられているわけですから。
 
それで、こういう患者さんを増やしていかなければならないのですけれどどうするか。ちょっと昔の話です。私が最初に修業させていただいたのが整形外科なんですけれどなかなかユニークなところで、物療を担当しているのがみんな柔道整復師やはり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師でマニピュレーションなんかも普通にやっていました。で、保険治療で改善しない方の中で希望する人には昼休みに特別診療、と言って時間をかけて全身治療みたいなことをやっていました。私の師匠で天才的に手技のうまい先生がおられてもちろん全額実費扱いなんですけれどもこれが満杯、全然予約がとれないくらいの人気でした。
あるいは私事ですが、先にも申しましたように私は現在月に一回広島のクリニックにお邪魔して希望される患者さんにクラニオセイクラルの手技をやっています。今年で11年か12年になります。こちらも保険は使っていません。私の手技はまだ発展途上なんですがにもかかわらず自慢するわけじゃないのだけれどなかなか予約がとれないほどの人気です。ありがたいことです。
 
それではなぜ医師のもとで手技療法を行うと実費治療なのに人気が出るのか?それは柔道整復師に求められる役割が補完医療の担い手であるから、です。補完医療はそれだけでは存在しえません。必ず一般の医療と対をなすことによってその価値が認められるものでしょう。(変なたとえですがプロレスの悪役をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません)そうであるならば柔道整復師が一般医療との共通項をもつことは「補完医療としての柔道整復」を発展させてゆくための有力な手段になることと思います。

一番わかりやすい共通項が今のところは「健康保険を使えること」ということになります。もっと簡単な言い方をすれば健康保険を使える整骨院の裏メニュー?であるからこそ柔道整復師が行うカイロや整体など様々な治療法が信頼されるのだ、ということになるでしょうか。さらに簡単にいえば「実費治療の患者さんを増やしたいんやったら保険治療との二本立てにしといた方がいいですよ。」という極めて現実的なマニュアルになってしまうのですが。
 
ケガの治療から始まった柔道整復は、医師の代替という役目を終えて補完医療としての手技療法の専門家へと変化しつつあります。それは柔道整復の滅亡を意味しません。私が大好きなマーケッターのメルマガにこんな言葉が載っていました。「恐竜は滅びたのではありません。鳥に進化したのです。」高い志を持って柔道整復業界に来られた皆様が志を全うされることを願って終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

長い間お付き合いいただいてありがとうございました。「柔道整復師は外傷の処置をする職業」という固定観念のほかに「保険が使えないと食べていけない」という強迫観念から脱出できた人が次の世代として生き残っていけるように思っています。そのための理論づけ、というか考える上でのきっかけになれば望外の幸せです。

THE DAY AFTERその5(もうちょっと続きます)

足の捻挫、といえば医学的にいえば靭帯の損傷とほぼ同じ意味です。前距腓靱帯が部分的に損傷しているか断裂しているか、そういうことが問題になります。靭帯が断裂していれば場合によっては観血的な処置が必要となるかもしれません。ひょっとすれば骨折を合併していることだってあるやもしれません。そのあたりの鑑別を画像診断でつけることは当然必要となってくるでしょう。

たとえば柔道整復業界でも超音波によって画像診断を行う機械というのが出てきています。診断という言葉を柔道整復師は使えませんので観察装置と言っています。現在では非常にいい画像が描出できるそうです

。それでは柔道整復師はなぜ超音波画像を使うのか、と言えばまず、損傷の程度を判断するのに画像が有用であるからです。そうしてもう一つの理由はレントゲンその他の画像診断装置を法律的に使用できないからです。撮れるものならレントゲン写真のほうがいい。でも撮れないから代わりに超音波を使っているわけです。これを柔道整復師のアイデンテティ、独自性というわけにはいきませんよねえ。

誤解のないように言っておけば私は柔道整復師が超音波画像を施術に取り入れることを低く見ているのではありません。ただ、どこまで鮮明な画像が得られようがあくまでも代用品は代用品で、これをレントゲン写真やMRIに近づけようとエネルギーを使うのはもったいないと思っています。なんせ接骨院を出てすぐのところに整形外科の医院があり、そこで本物のレントゲンを簡単に撮ってもらえるのですから。
代替医療としての柔道整復というのはもはや整形外科医のいない地域でしか成立しないものなのかもしれません。
 
さて、足の捻挫の話でした。足の捻挫を靭帯の損傷という整形外科と同じ視点でとらえている限り柔道整復師は医師にかないません。それではほかの見方をしてみるとどうでしょうか。「昔、足を捻挫してから何かの拍子に同じ所が痛む。」という方は結構おられます。これは皆さん、どんなふうに考えますか?

放置されていた捻挫だけではなく、それこそレントゲン撮影をして、場合によってギプスで固定して免荷歩行させて、それでも痛みの残っている人は結構います。こういう症状をたとえばある手技療法の流派ではこんな風にとらえています。

突然ですが腓骨頭触ってみていただけますか?軽く腓骨頭を触りながら足をねんざするときのように内がえししてみてください。腓骨頭、動いてるのお判りになります?だから足に強い内返しの外力が加わると腓骨頭が外にはみ出るんですよ。ずれる、という言い方が正しいのかどうか分かりませんが正常の位置からわずかだけれど逸脱している。すみません、もう一度足を内返しにしていただけます?今度は足の甲を意識してくださいね。なんか突っ張ってるでしょう?ここのところはリスフラン関節ですよね。足に内返しの衝撃が加わるとリスフラン関節にもずれが生じます。もちろん足関節そのものにもずれは生じます。こういうところを調整すると捻挫の痛みがしつこく残っていたのがうまく消えたりします。で、これって補完医療じゃありません?
 
同じ足の捻挫に対し、整形外科では靭帯の損傷という視点からアプローチする。画像をみて診断し、必要に応じてギプス固定したり手術したりして損傷の治癒を図る。繰り返しになりますがこの部分で柔道整復師が医師の代わりにできることは限られています。ところが医学的には治っているはずの足に痛みが残っているときに柔道整復師が(たとえば関節のズレ、といったモデルで)アプローチしていく。それで痛みが解消されれば当然生活の質は向上しますよね。現行の医療にプラスアルファで生活の質を高める、という補完医療の定義にぴったり合っています。
 
腰の痛みについても同じです。腰が痛い、ということで病院でいろんな検査をしたけれど異常なしと言われた、でもやっぱり腰が痛いという人はたくさんおられます。そういう患者さんに対するアプローチの方法は皆さんいろいろ持っておられるでしょうしこれから勉強もしてゆかれることとおもいます。骨盤、仙腸関節のゆがみが原因だという人もあれば頸椎一番のサブラクセーションだという人もいるでしょう。私のところなら当然頭を触ります。それぞれの考え方、治療法のどれが正しいとかどれがいいかとかの問題ではなく一般の医学と違う見方、違うアプローチの仕方によって「原因不明の腰痛」のかなりの部分が解消できるはずです。

柔道整復師の強み、というか患者さんが求めているものは多分ここなんだと思います。医師の目の届かない、あるいは目を向けようとしない症状。これこそ私たち柔道整復師が拘ってゆくべき対象だと考えます。柔道整復師にとって「補完医療としての痛みの治療」というのがこれから進んでゆく上で結構大きな選択肢になるんじゃないかと思っています。

次回、感動?の最終回です。

THE DAY AFTERその4

前回の続きです。

さて、それでは外傷の手当てのほかにどういうことで柔道整復師は世の中の役に立っていくことができるのでしょうか。自己紹介のところで言いましたように、私はクラニオセイクラルという手技を臨床の柱においています。クラニオ―頭蓋骨やセイクラル―仙骨を梃子にして脊髄硬膜の緊張を取っていく、というテクニックで自律神経の調整をすることで様々な症状、もちろん外傷あるいは整形外科疾患以外にも効果があります。たとえば耳鳴りとか頭痛、変わったところでは子どもさんの学習障害なんかにも効果的なこともあります。
 
月に一回、広島の診療所にも行っているんですけれどこちらの方はサルコイドーシスとか脳手術の後遺症とか医師の指示のもとにいろいろ施術させてもらっています。

クラニオはオステオパシ-由来の手技ですからそっち方面のセラピスト、カイロプラクティックとか整体とかそういう関係の知り合いも多いです。無資格で手技療法を行うことについては皆さんにもいろんな考えがあるでしょうけれども彼らは勿論保険も使えませんし、治療費は全額実費です。それでもそういったカイロプラクティックや整体の治療院、流行っているところはずいぶんとはやっています。必ずしも悪口で言ってるのではないのですが彼らの受けている教育、特に基礎医学は質・量ともにかなり貧弱です。整体関係のスクールの教育機関というのはせいぜいが週に一回、8ヶ月とか半年とかで卒業というところが多いです。解剖生理なんて初めの一ヶ月間、週に一日の授業だけですから二時間足らずの講義を4コマくらいしか受けていません。そのくらいの知識しかない人に自分の体を預けるのは怖くてできないだろうと思うのですが、先ほども言いましたようにはやるところは流行っています。医師からみた柔道整復というのがちょうどこれと同じでしょう。なんで整形外科がこれだけ充実しているのに整骨院なんかに行くねん?という感じなのでしょう。
 
先ほどあげました大学の教授をはじめとして柔道整復師を嫌いな医師の多くは整形外科医です。理由は勿論いくら整形外科が奇麗事を並べてもお互いに競合関係にあることが多いからです。柔道整復師が医師と競合なんて恐れ多いことのようではありますが、これは私だけが言っているのではありません。たとえば10年ほど前に出版された「整形外科プライマリケア・ハンドブック」という本にこんなことが書いてある。
 
「整形外科が痛みの治療を手掛けるようになってから、それまで痛みの民間治療として行われていた鍼治療、マッサージ、柔道整復、カイロプラクティックとの競合が避けられなくなった。」

ね、すごいでしょう。ココまで言っちまっていいの?という感じですよね。4つほどの療法があげられていますが鍼もマッサージもカイロも接骨院で行っているところが多いですから実質これは「整形外科と接骨院とが競合している。」と言っているのと同じことです。ただし、柔道整復師が自分たちの領分と勝手に思っている「外傷」ではないですよ。
骨折その他の外傷に対する処置についてはどれだけ柔道整復師が頑張っても絶対に整形外科医にはかないません。たとえばどこかの無人島に流れ着いたというのならレントゲンも撮らず、麻酔も使わずに骨折を整復する技術も重宝されるでしょうけれど実際にはあんまり?そういう機会に遭遇することはないと思います。医師が本音の部分で「競合」と感じているのは「痛みの治療」なんですよ。もちろん技術的なことではなく健康保険を使っていることが競合なのでしょうけれど。この本のこの文章はある意味本質を突き過ぎていたようです。「整形外科プライマリケア・ハンドブック」はその後版を重ねましたがご紹介した文章は2版以降削除されてしまっています。医師にとって柔道整復との競合というのは口にしてはならないことなのでしょうね。
 
先ほど、柔道整復はケガの手当て、いいかえれば医師の代替機能としての役割を終えつつあるという風に言いましたが世間には代替補完医療という言葉があります。要は正統とされる医療、医学以外をひっくるめてこう呼びます。もうちょっと細かく言うと現行の医療をやめてその代わりに行うのが代替医療。現行の医療にプラスアルファで生活の質を高めるのが補完医療ということになるそうです。

もうしばらく続きます。
 

THE DAY AFTERその3

続きです。

それでは柔道整復師の取り扱うことのできる傷病にはどんな法的規制があるのか、といえば特に定めはありません。
昭和41年に当時の厚生省の医事課長が出した通達があります。「医行為又は医業類似行為(広義とする。)であるか否かはその目的又は対象の如何によるものではなく、その方法又は作用の如何によるものと解すべきである。」何かややこしい言い回しですが要するにある行為が医師にしか行うことのできないものか、柔道整復師も行ってよいものかの判断基準は目的や対象ではなく、どんなことをクライアントに行ったのかで判断される、とでもいった意味でしょうか。だから美容整形みたいに健康な人を対象に治療目的以外の目的で行う行為も、メスを使った手術ですから医師にしか行うことができない。骨折や脱臼であってもレントゲン撮影をしたり投薬や外科手術を行うことはやっぱり医師にしかできない。反対にたとえば柔道整復師が肩関節脱臼の整復に使うコッヘル法という手技を脱臼以外の傷病、例えば肩関節周囲炎に行っても別にかまわない、もちろん実際にはないでしょうが全く健康な人の方にコッヘル法を施術しても法律上何ら問題はない。そういうことです。だから柔道整復師の施術の対象というのは別に骨折・脱臼・打撲・捻挫には限られない、ということになります。施術の対象が法律で定められているなんてのは真っ赤なウソです。現に厚生労働省のホームページにもこんなのがあります。「柔道整復師の施術を受けられる方へ」とあって「整骨院や接骨院で骨折、脱臼、打撲、及び捻挫(いわゆる肉離れを含む)の施術を受けた場合に保険の対象になります。」「単なる肩こり、腰痛などに対する施術は保険の対象になりません。このような症状で施術を受けた場合は、全額自己負担になります。」と、ちゃんと書いてあります。だから、「骨折・脱臼・打撲・捻挫」は単に保険の対象になるというだけで健康保険を使わなければ肩こりであろうと腰痛であろうと、いいかえれば外傷でなくても全く問題なく施術を行うことはできます。柔道整復師は外傷を扱う、あるいは外傷しか扱うことのできない資格である、というのが単なる思い込みによる誤解であることをご理解いただけたでしょうか。外傷しか扱うことのできないセラピストを年間五千人も増やしたってけが人はそんなに増えませんよ。柔道整復低迷の原因の一つがこの誤解によるものなのは明らかです。
イヤ、それでもおれは骨折、脱臼にこだわる。骨が接げてこそ「ほねつぎ」だという考えは勿論立派だと思います。そうして骨折、脱臼の治療に素晴らしい実績をお持ちの方も業界にはたくさんおられることも承知で言うのですがそれは誰のための技術でしょうか。というのが柔道整復師が骨折、脱臼に施術を行う際にはいろいろな制約があるのです。関係法規の講義の復習とか予習になってしまいますけれどこのあたりのことを確認しますね。まず、骨折、脱臼の患部に施術をする前には医師の同意が必要です。つまり、柔道整復師が施術をする前に医師がその骨折なり脱臼なりを診察して「これは柔道整復師が施術してもよい」という同意があって初めてその患部に施術を行うことができるわけです。もちろん応急手当といって医師が診察を行う前に柔道整復師が骨折、脱臼の患部を一応整復することはできるのですが医科であればレントゲンの透視下に、麻酔下に整復を行うのに対し柔道整復師は文字通りの徒手整復です。患者さんもしんどいでしょうしいずれにせよもう一度医師の診察は受けなくてはならない。それなら患者さんは二度手間ですよね。初めから医師が診察して、診断を付けた上で整復、固定を行った方が患者さんは絶対に楽です。さらに骨折については骨折部に接着剤を注入してその場で骨をくっつけてしまう、という技術が開発されつつあるのだそうです。現在どの程度まで実用化が進んでいるのか知りませんけれど、そうなってしまえば骨折や脱臼の患部を固定する技術も、固定をはずしてからの後療法も必要ないことになってしまいます。「俺は骨折や脱臼をきちんと整復、治療できる」というのは間違いのない話であってもそのこと自体が患者さんに余分な苦痛を与え、場合によっては治癒を遅らせてしまうことになりかねないのだということもこれからの柔道整復師は知っておかねばならないと思います。
 
柔道整復師の業界では最近になって「柔道整復学」を構築しようという動きが盛んになっています。整形外科学ではなく、独自の学問体系、と言ったって外傷にこだわる限りそれは整形外科学からレントゲンやら投薬やらその他の現代医学的なものを差し引いただけのものではないか、そんな風に私は心配しています。レントゲンも見ずに、麻酔も使わずに外傷を治してしまうという名人芸は確かにすばらしいと思いますがそう思うのは柔道整復師の仲間内だけです。患者さんは決してそうは考えていません。
 
ケガの痛みがなかなか治まらない、というとき患者さんは決まって「病院に行って、レントゲン撮ってもらった方がいいですか?」と聞いてこられます。私が普通にケガの患者さんを保険で治療していた頃もそうですし現在だってそうでしょう。柔道整復師が現代医学的な方法を用いないこと自体を患者さんは評価しているわけではないのはこのことだけでも明らかです。ついでに言えば外傷について本気で研究するつもりならば当然欧米の先達たちの研究についても知らなければなりません。それも訳本ではなく原本に当たらなければなりません。医学関係の原著論文だって全部欧文なわけでこれを読みこなせる柔道整復師は残念ながら多くはないでしょうね。
 
もともと柔道整復師が変則的にせよ骨折、脱臼、打撲、捻挫の患者さんに対して健康保険を使うことができたのは整形外科が未発達の時代に医師の代わり、代替としてということでした。接骨院での保険取り扱いについてはこれからも大事にしていかなければならないのは言うまでもありませんが整形外科がこれだけ発達した今日に医師の代替機能という言葉はしっくりこないのもまた本当でしょう。ケガの手当てとしての柔道整復は徐々にその役割を終えつつある、と考えます。外傷にこのままこだわり続けることは柔道整復そのものの滅亡につながっていきかねないと考えます。もっと身も蓋もない言い方をすれば健康保険にしがみついたままではこの先しんどいのと違いますか?ということです。
 
 次回に続きます。
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プロフィール
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かなや やすひろ
HP:
性別:
男性
職業:
柔道整復師
自己紹介:
大阪市在住。医療系専門学校で教えるかたわら自宅兼のちっこい治療院でクラニオセイクラルのセッションを行う。好きなこと:講義すること、治療すること、飲むこと。嫌いなこと:お医者さんごっこ
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